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緊急事態にあっては、経営企画部と営業企心にあたった。
緊急事態にあっては、経営企画画部を中心に横断的に人材を集めたマトリクス方式のほうが、迅速で効率的であるとSは考えたのだ。
これらのほか「システムの運用コストを八億円落とす、役員の報酬を一五%カットし、さらには現場の構造改革を・・・」と、一つひとつ分積みして、トータル一五○億円という膨大なコストの削減をニ年間で実現したのである。
勝ち残るためのシナリオの対価と代償八つの改革プロジェクトが挑んだ改革二一世紀に勝ち残るためには、「大きくて強いJTB」という一社体制では限界がある。
「専門性を有する組織の連合体」をめざしたJTBの分社、ホールディング化は、発表一年前のニ○○三年の時点では、青写真はあったものの確たる決定はなされていなかった。
例えば、フルチェンジとは異なる、もう一つの選択肢であった「カンパニー制の導入」という改革案も検討され、議論が交わされていた。
「どちらが正攻法なのか」「分社することに勝算があるのか」「単なるマィナーチェンジで、この難局を乗り越えられるのか」など、S氏も経営陣も結論を出し切れずにいた。
八つの改革プロジェクト・チームが、経営改革に関する問題意識や課題の確認作業にあたり、答申を三カ月でまとめあげることになった。
そして、「分社、ホールディング化」というフルチェンジを目指していくことが決まり、それに向けてさらに検討がなされて、最終的に会長の判断が下された。
翌、○四年二月ニ日には、臨時の営業本部長会議が開催され、経営陣全体の分社化への.ここで特に議論となったのは、分社による弊害だった。
この改革でマーケットへの正対は進んでも、グループ内で「労働条件に不均衡が生じるのではないか」「求心力が失われるのではないか」といった危倶の声もあがった。
ンセンサスも得ることができ、以降、基本的なフレームづくりを急ピッチで行うことになる。
これが全社発表の半年前のことだった。
すべては厳しい時代に勝ち残るためのシナリオである。
新たな経営体制を構築するためには、かつてのような手ぬるい組織改革では立ち行かない。
これまでにもさまざまな対策委員会なるものが、設置されたが、「誰かがやるだろう」というもたれ合いの精神が社員の間に蔓延し、抜本的な解決には至らなかった。
気休めで組織をいじる程度のマイナーチェンジでは、本当の意味のりエンジニアリングにはなり得ないということだった。
求心力の維持と労働組合の協力ゴールデンウィークのさなかの、○四年四月二九日に開催された臨時の常務会席上、改革プロジェクト・チームによって、ホールディング化における基本的な枠組みや方針が公式に発表「過去からの請求書」への対応老舗といわれる企業ほど、「過去からの請求書」といえるレガシーコスト、すなわち「負の遺産」を内包する傾向がある。
JTBにおける最大のレガシーコストは、年金や退職金であった。
改革のためには、このような問題も避けては通れない。
これに正面から向き合い、大岡裁きに出てくる「三方一両損」の考えで臨む。
つまり、会社、OB、現役社員の三者が、共に痛みを分かち合おうというわけだそれに対して、事業持ち株会社に求心力を持たせるような方策と、さらなる補強が討議されることになった。
「求心力は″仕組み″でカバーしよう」というプロジェクト・チームからの答申に、グループ全体としてつくり上げてきた強みを活かした「一括仕入れの仕組み」や、グループ内の「横断的交流人事」といった案が出され、骨子もまとまりはじめた。
しかし、ホールディング化の実行部隊にも、手の及ばぬ聖域があった。
それが労働組合だ。
ホールディング化の素案ができて以降、組合各支部からは、収益性の低い地域が切り捨てられるのではないかといった不安の声が寄せられた。
「対価と代償」のうち代償の部分に、労働組合幹部たちの苦悩があった。
「企業年金の受給開始年齢の引き上げや利率の見直しなど、時流に則した改正案件は、マイナーチェンジで乗り切る。
しかし、二一世紀を見据えた抜本的な改革、すなわちフルチェンジ部分には、労使間で相当な時間をかけて協議した」という。
これらの流れを受けて発足したのが、先述した八つの改革プロジェクトのうちの一つ、「年金改革プロジェクト」だ。
過重な負担としてフルチェンジの対象となっていた年金問題には、二つの考え方で見直しを検討した。
一つは給付額の見直しであり、もう一つは制度の見直しである。
退職者の生活の安定が前提となるので、受給待機者を含むOBの同意を得るまで、会社側が積極的に対話に参加し、現職の社員と組合の間でも協議がなされた。
結果として三者が同意に至ったのは、「自分たちの働く職場、働いた会社が消滅するというJTB独自のていたといえる。
経営者側の年金制度の見直しとは別に、労働組合内部でも、九○年代の後半からこの問題は討議されていた。
当時のJTBU中央執行委員長・小林高広によると、「働く人の価値観が多様化していく中で、従業員のライフプランやニーズに、どのように対応していくかといった問題は、九七年ころからすでに協議されていた」という。
OBたちの理解と協力フルチェンジの中で重要課題として労使一体で取り組んだのが、「厚生年金基金の解散」と「報酬比例部分の代行返上」だった。
厚生年金基金は、企業が、国の肩代わりをして老齢厚生年金の一部を運営し支給する企業年金の制度で、基金ごとに独自の基準でプラス・アルファを設けているから、退職者には優位に還元できるうえ、年金原資を実質的に内部留保できる。
こうした企業が代行している部分を国に返上することで、企業としての負担は軽減されるが、退職者にとってはうまみがなくなる。
S氏は、国に対して「代行返上」を願い出る策に打って出ることを決断し、OBたちとの調整を図った。
「年金の引き下げ」という思いがけない提案に、OBの九割以上から同意書を得ることができ、改革推進の大きな弾みとなった。
しかし、少数とはいえOBの間にも反対意見があった。
それぞれの年金暮らしの中で、「切り捨てられた」という感を抱くのも当然のことといえる。
これ危機だけは、何としても回避したい」という熱い想いがあったからだ。
三位一体となって取り組むことが、結果として、受給待機者を含むすべてのOBや従業員たちの将来の安定につながると判断されたのである。
社員の動揺一方、ホールディング化の全容が明らかになると、多くの社員がライフプランも含め、分社後の自分の所属や仕事内容について不安を抱いた。
有期契約社員を含む約一万人の社員たちが、いずれかの事業会社に移籍することになる。
これを機に、本当にやりたいこと、やりたかった業務への転籍を願い出る者も少なくなく、管理職や担当社員は人員の交通整理に明け暮れた。
連日のように個別のヒアリングが行われ、夜の酒場では無礼講で本音も語られた。
「旅」という一つのキーワードで入社し、成り立ってきた企業だが、グループ会社の中には、旅から遠く離れた周縁事業を専業とする会社も多い。
また、旧JTBから営業譲渡を受けた新設事業会社では、法的に労働条件を各社が独自に決めることができるため、不安を抱く者もいた。
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